第10章 騒動
今日も今日とて、伏見はお仕事。
怜は部屋で裁縫をしている。
セプター4に休みなんてない、と言っているかのような日常生活。昨日は三時頃に帰ってきたのに、朝七時にはもういなかった。
端末で音楽をかけながら静かに裁縫をしている怜。しかし、周りの音には反応出来るようにあまり大きくはしていない。
この前のように突然部屋に入って来られても困らないようにだ。
怜の周りにはいろんな色の生地が散らばっている。気に入ったのであろう青い色の生地を楽しそうに縫い合わせている。
夕方になり、怜の裁縫は終わった。
大きなくまの人形。商品として売っていてもおかしくない出来である。目は少しタレ目でどことなく伏見に似ている。
怜は嬉しそうにそのぬいぐるみを抱きしめた後、散らばっている生地を集め、片付けた。
今日は早番だと言っていたので、そろそろ戻って来るはず。
そう思ったとき、ガチャリと扉の開くおとがした。
ひこが帰ってきた、と思いそちらを見れば、違う人。
油断していた。
その人と目が合う前に開けていた窓から飛び降りる。もちろんぬいぐるみを抱えて。
自分の存在に気づいてしまったようで、その男の人は慌てて窓の側にやってくる音が聞こえた。
なので、走り出すのをやめて死角に入って様子を見る。
あぁ、また騒がれるのだろう。
伏見の機嫌が悪くなるのを承知で、怜は夕方の街へとくりだす。
自分より少し小さい、大きなくまのぬいぐるみを抱えて。