第5章 兄弟
ちなみに投げられたのはバット、フライパン、壺、どんぶり鉢、石臼。
当たれば相当痛いどころか命に関わる可能性さえある物たちだった。
それを何のためらいもなく投げきった彼らは、それらが命中したカラ松が気を失うのを確認すると、ぴしゃりと窓を閉める。
開いた口が塞がらないチビ太。
予想が当たってしまったと私の顔は青ざめるばかりだった。
「……鬼だ……!!」
あの5人はカラ松を助けようとしたんじゃない。
自分たちの安眠を妨害したことに対して抗議をしたかっただけ。
怒りやら悲しみやら悔しさやら色々な感情がごちゃ混ぜになってわなわなと震える私の後ろで、チビ太は冷静だった。
持参してきていた水で消火し、カラ松を括り付けていた棒から降ろし、横たわらせる。
「じゃあ、後は頼んだ」
「はぁ?どうして私が…ちょ、チビ太?!」
「俺はもう疲れちまったんでぃ…お前がいれば平気だろ、カラ松を頼むぜ」
「何かカッコよく言ってるつもりかもしれないけど、要は私に彼を押し付けてるだけだよね?!待ってよ、チビ太!!チビ太ぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
私の叫び虚しく、チビ太はリアカーを引いて行ってしまった。
カラ松を道端に捨て置くことも出来ないから彼を追いかけることもできず、置いてかれてしまった私は途方にくれるしかない。
「……どうしてこんなことに…」
冷たい風が、私たちの間を通り過ぎた。