第5章 兄弟
"そろそろチビ太も怒っちゃうよ?"
それは何気なく呟いた言葉だった。
それがまさか、現実のことになるなんてこの時の私は思いもしていなかったんだ。
初めてチビ太の店に行った後も、私はしばしば彼の元を訪ねた。
おでんも美味しかったし、彼も良い人だったから、あそこは居心地が良かったのだ。
気付けば呼び方が呼び捨てになり、敬語が外れた。
そんな彼がやたらと荒れていたのは昨日のこと。
帰りに近くを通ったから店じまいをしている彼の顔を見に行っただけだったのだが、その表情は険しかった。
「チビ太…?」
「てやんでい、ばーろぅ、チクショー」
何を聞いても、言っても、チビ太はその言葉しか言わない。
その瞳には何かの炎がメラメラと燃えていた。
ふとテーブルを見てみると、そこには1人分のおでん代にもならなさそうな小銭と、犬の手形と、どんぐりと、ビール瓶の蓋。
「あぁ…またアイツらか」
何となくだけど予想がついた。
今までやってきた六つ子の行動に、遂に彼の堪忍袋の尾が切れたのだろう。
「…ほどほどにって言ったのに」
これは彼らを庇う気になれない。
1度チビ太にお灸を据えてもらうといいくらいに思えてしまうのだから。
会話は望めなかったので、差し入れのお菓子を彼に渡しただけで帰路に着いた。
そして今日、事件は起こった。