第3章 玉砕、のち(刀剣乱舞/御手杵)
ただの友達だと思っていたのに。
図体のデカイ、手のかかる弟みたいなやつだと思ってたのに。
恋愛対象に入ることすら有り得ないと豪語していたのに。
結局御手杵に恋してしまったのは、何の皮肉か。
しかも無自覚だった。加州に指摘されて気付いた時には、思わず空を仰いだ。ジーザス。なんてこったい。
有り得ない。何で私がアイツなんかを。
平常心、平常心と言い聞かせても、翌日から奴の言動に振り回されるのは必然だった。
なんせ奴は私のことを女と思っていない。男友達と同じノリで接してくるものだから距離は近いし、おまけに感情表現はど直球。けれども、言葉に深い意味は特にない。
そんなことは解りきっていたはずなのに、その時の私は浮かれていた。何にって、恋に。
だって、高校に入ったら彼氏が出来るかもなんて淡い期待を抱いたりもしていた、恋愛経験のない女子高生である。しかもあと一年以内に卒業する。
そこでようやく訪れた、初めての恋。浮かれるなという方が無理な話だ。
しかし浮かれ方がよくなかった。それは言うなれば、お花畑。ファンタジー。
物事を自分に都合良く解釈し、盛大な勘違いを犯すような精神状態だったのである。
そしてあろうことか、御手杵から向けられる好意の種類を履き違えてしまった。親愛を、恋愛に。彼の性格を熟知していたにも関わらず、だ。
一ヶ月後、私は御手杵に告白した。
二週間前からどんな風に伝えようか、どこで、いつ。悩みに悩み、布団の中であらゆるシュミレーションをした。日によって勇気が出なかったり、タイミングが合わなかったり、紆余曲折しながら、なんとか告白まで漕ぎ着けた。
彼も私を恋愛方面で少なからず想っていると思い込んで。
結果は実にあっさりしたものだった。
御手杵はシャツに手を突っ込んで腹をボリボリ掻いていた体勢のまま、キョトンとした表情で瞬きを二つ。
「え、無理」
たった三文字。
いっそ惚れ惚れするほど鮮やかに、御手杵は私の一世一代の告白をバッサリと切り捨てた。