第8章 退屈だから。
俺達は事故現場をあとにした。
状況を説明できるわけなかったから。
運転手は軽く頭を打って気絶してるだけだったし、女どもは俺が能力使って気絶させたからなんの問題もない。ってことで。
とりあえず雪華の家に行くことになった。
雪華の髪の毛の血とか、洗い流さないといけないしな。
「ねぇ亜久斗…」
「ん?」
帰り道、雪華がおずおずと口を開いた。
「亜久斗これから…転生するの?」
「なんで?」
「もし転生しちゃったら、またいつ亜久斗に会えるかわからないじゃない…?」
「あぁ」
「だからーー」
「寂しい?」
「…少し」
血まみれで会話する男女。
異様な光景だ。
でも俺は、俺達はどこか楽しかった。
「残念だったな。悪魔界は天使界と違って、ご丁寧に転生なんてさせてくんないの」
ベッと舌を出して言う。
俺は不機嫌そうに言ったのに、雪華は笑顔になった。
「…そっか。そっかそっか!!」
「あ、でも羽取られに行かないと…」
「あぁ…!!取られるときすごく痛いよ…」
痛みを思い出したのか、雪華がガタガタと震える。
…おもしろい。
「まぁいいさ。羽が取れれば人間になる」
「…?人間になりたかったの?」
「ちげーよ。…間違ってないかも」
「どっちよ」
クスクスと笑う雪華。
九条は、雪華のこんな笑顔をいつも見ていたのだろうか。
やっぱり、ちょっとうらやましい。
「俺がコッチにいたいって思う理由ができたんだよ」
「?」
…鈍いなこいつ。
「お前が好……悪魔界が退屈だからさ!」
「そんな理由で一生を棒に振っても知らないからね?」
棒になんて振らない。
隣に雪華がいれば、
それだけで満足だ。
だから雪華。
俺を退屈な日々に戻してくれるなよ。
大好きだ。
いつか絶対振り向かせる。覚悟しろ。
ーfinー