第8章 退屈だから。
ぎゅっと目を瞑り、ひたすら祈った。
やれるだけのことはした。
あとは…雪華が戻ってくれれば…。
「雪華…!」
「…なぁに?」
「!!」
ポツリと呼んだ名前に反応したのは、間違いない。
雪華だった。
俺の腕の中、相変わらず赤黒いままの髪の毛が僅かに動き、雪華が起きたのだと認識する。
「大丈夫…か?」
「ふふふ」
俺の心配をよそに、雪華は笑い出した。
「なんで笑う。こっちは必死だったんだぞ」
ごめんごめん。と、心にもない謝罪を口にする雪華は、もうなんとも無さそうで、安心した。
「なんか。九条さんと私みたいだなって…ほら、私が九条さんで、亜久斗が私。ね?」
俺から少し離れ、小首を傾げながら言う雪華。
たしかに、そうだ。
状況的によく似ている。
「あ…てことは、亜久斗!!」
何故か泣き出しそうな顔の雪華が、俺の腕を掴んで顔を覗く。
あぁ…。
「いいよ。別に」
「良くないよ。人間の寿命を延ばすことは天空界では御法度だよ?!亜久斗、追放されちゃうよ!!ごめん…私のせいで…ごめん…なさい…」
もう一度、いいよと言って、雪華の頭をなでた。
そう。俺は自分でコッチ(人間界)に残ることを決めたんだ。
…雪華が好きだから。
雪華を守るために。
だから、羽が無くなろうが天空に帰れなかろうが関係ない。
コッチには、雪華がいる。
それだけで満足だ。
まったく。
悪魔が天使に惚れるなんて、どんな物語だよ。
でもしょうがない。
実際に、好きになってしまったから。
これからは、人間としての亜久斗が生きていく。
まずは雪華を振り向かせないとな。
それからだ!