第1章 出会い
ほんの気まぐれだった。
悪魔界が退屈でたまたま人間界を散歩していたら、なにやら"ガッコウ"のプールサイドが騒がしかった。
真冬のプールで泳ぐ人間なんかいるのかと、興味本位で覗いてみた。
プールサイドには、何人かの女子生徒が、一人に向かって一方的に暴言を吐いていた。
挙句の果てには、プールの中にそいつを突き落として、ケラケラと笑いながらどこかに行ってしまった。
突き落とされた本人は、ボーッと一点を見つめたまま、水を背につけプカプカと浮いている。
頭でも打ったのかと思い、話しかけてみることにした。
…暇だったし。
悪魔の羽を隠し、人間の姿でプールサイドに降りた。
もちろん、隠したところはバレないようにしたさ。
「何してるの?」
プールサイドに直接降りたからドアの開閉音はしなかったはずだ。
急に話しかけたというのにプールに漂うそいつは驚く様子もなく、ただ
「見てわからない?泳いでるの」
と、意味のわからない嘘をついた。
いやいや、明らかに落とされてただろうが。
と思ったけど、それは言わなかった。
「こんな真冬に?」
「うん」
「服を着たまま?」
「うん」
「なんで」
「そういう気分だったの」
いや、どんな気分だよ。
「誰かに落とされてわけじゃないんだ」
「…うん」
言葉詰まってるし。
なんで嘘つくんだ。
意味わかんねぇ。
そんな事を思っているうちに、そいつはバシャッと水音を立ててプールサイドに上がっていた。
雪みたいに真っ白で綺麗な長い髪を伝って次々に水滴が流れ落ちていく。
キラキラして、人間でも悪魔でも、心を奪われるほどに綺麗だった。