第4章 片羽のワケ
九条をはねた車はとうに消えてしまい、残されたのは血まみれの二人と、無傷の私。
女の方はもう手遅れだった。
でも、九条は生きていた。
苦しそうに肩で息をし、か細い声で私を呼んだ。
私は慌てて駆け寄った。
九条は私に好きだと言って、キスをした。
初めてのキスだった。
悲しくて、真っ赤な血の味のキスだった。
涙が止まらなかった。
九条はもう、目を開けることすらできず、ただ死を待つだけだった。
そして私は"罪を犯した"。
もう死んでもおかしくない九条の命を救った。
寿命を延ばしたのだ。
人間には寿命がある。
原因はどうであれ、寿命がくれば死ぬ。
九条は、その日が寿命だったのだ。
その寿命を私は延ばした。
天使が人間の寿命を延ばすことは重罪である。
消して許されることではない。
人1人の寿命を延ばすという大それた事をしたのだ、バレないわけがなかった。
両羽を取られてもおかしくなかったが、神である裁判官が私と九条の気持ちを汲んでくれた。
最後の情けだと、片羽だけを残した。
九条からは、私との記憶を一切消され、私は天空界を追放。
人間、雪華として転生した。