My important place【D.Gray-man】
第39章 夢現Ⅲ
「はぁ…まぁいいや。とにかく聞けって雪」
「何」
「お前は人間だ、何も変わりゃしない。ラースラであったってなくたって。それを忘れるな」
「……」
予想外の言葉を投げかけられて、思わず睨んでいた眉間の力が緩む。
優しい、でも飄々とした声。
凄く人間味のある落ち着く声。
…自然と身構えていた体から、力が抜けた。
「次に"予兆"がした時は、俺のその言葉を思い出せ。俺の名前を呼べ。見失わずにいたら、応えてやれるから」
「応えるって…」
「言っただろ? ちゃんと迎えに行くって」
間近にある顔が、ふ、と微笑む。
飄々としているけど、優しさを感じられる笑み。
美形に興味なんてないのに。
何故か鼓動が速まった気がした。
「迎えにって…一体なんの迎え」
そういえば、前にも似たようなことを言われたっけ。
その意味を問いかける間もなく、私の前から姿を消した気がする。
「その時がくればわかる」
だけど答えは曖昧なものだった。
思わず眉を潜めれば、くすりと笑われる。
なんだろう…美形だけど砕けた表情をするから、親しみやすいのに。
この顔は、真意の読めない綺麗な顔。
「のの~。そろそろワタシもいいかのう。時間が押しておる」
「…どうせ頭ん中に言葉突っ込めるだろ、お前」
「そういう言い草はないじゃろ」
その空気を壊すように、ずいっと間にワイズリーが顔を突っ込んでくる。
離れるティキの顔。
同時に固定されていた頬も解放される。
「雪」
そして今度は、とんと褐色の指先が私の額に触れた。
触れているのはワイズリーの手。
スキンシップ好きですね、貴方達。
「目覚めれば忘れてしまうだろうが…記憶の奥底には残っておるだろう。だから忠告しておく」
忠告?
…そういえばそんなこと、誰かも言ってた。
高いソプラノの可愛らしい声で。
…あれは誰だったっけ。