My important place【D.Gray-man】
第9章 黒の教団壊滅事件Ⅲ
「…多分ゾンビの皆に襲われた時、誰かの手形が付いたんだよ」
赤いそれは誰の血かわからない。
気持ち悪さはあったけど、一枚だけの病院服を脱ぐこともできないから。
どうにか取り繕うようにして、神田に笑いかけた。
納得のいかないように私の背中を見ていた神田だったけど、此処で考えても答えなんて出るはずもない。
「…行くぞ」
「うん」
少しの沈黙の後、とにかくトイレから出ることを先決した。
「誰かが逃げた跡はねぇな」
トイレから出た神田が、辺りを伺いながら呟く。
つまり、やっぱりあのドアの向こう側には誰もいなかったのか。
そうなるとあの足音と吐息は誰のものだったのか。
お互いに、あの音は本当に聞こえたのか。そんな確認はしなかった。
しなくても、確かにこの耳に聞こえていたのはわかっていたから。
「ねぇ、神田」
「なんだ」
「…ううん。なんでもない」
一瞬聞こえた吐息の声。
それは果たして、本当に聞こえたものなのか。
それを神田に問いかけようとして…止めた。
幽霊とか心霊的なもの、神田は簡単に信じようとはしないだろうし。
言ってもラビの時みたいに呆れた反応が返ってくることは、目に見えてたから。
「ボサッとすんなよ。ついて来い」
「うん」
ちらりと振り返った公共トイレ。
静かに佇むそこからは、変な気配なんて感じない。
…でも。
『実はさ、なんか…変な声、聞いた気がして』
そう、恐々と話していたラビを思い出す。
──"もしかしたら"。
そんな嫌な予感が一瞬だけ巡って、頭から追い出すように強く首を振った。
やめよう、そんな想像。
今はこの状況から助かる方法を探さないと。
あれはきっと、気の所為だ。