My important place【D.Gray-man】
第39章 夢現Ⅲ
「じゃがしかし…むむう」
「っ」
「大丈夫、大丈夫」
伸びたその青年の手が、ぺちりと私の額に触れる。
思わず体を強張らせれば、肌で伝わったのか。
ぽんぽんとティキの手が落ち着かせるように、背中を撫でてくれた。
「安心せい。その怒りと痛みを取り除いてやるだけだ。…これはワタシにしかできぬからのう」
少しだけ眉を下げて、気遣うように控えめに笑いかけてくる。
…あ。
この顔、見たことがある。
この言葉も、知ってる。
確か…あの時は額を重ねて、同じように"取り除いてやる"って──
「…ぃ…嫌…っ」
体に悪寒が走る。
好き勝手に体の中を掻き回される恐怖。
──あ。
これ、地下での身体検査に似てる。
『ぃ…いた…ッ』
『大丈夫、痛くないよ。お薬を使ってるからね』
『でも、ちが…たくさん…っ』
『大丈夫。すぐに終わるから』
鈍く光る銀色の刃物を、体に押し当てられる。
すると簡単に皮膚は裂けて、赤い血を溢れさせた。
痛いはずなのに。
適性実験ではいつも激しい痛みしかないのに。
身体検査の時は、その"痛み"が襲ってこなかった。
それが逆に怖かった。
自分の体が自分の体じゃないようで。
好き勝手に弄られて、掻き回されて。
私の体なのに私じゃないような感覚。
「嫌…ッ触らない、で…ッ!」
「む」
額に触れていた手を跳ね除ける。
暴れようとすれば、囲っていたティキの腕が束縛を強めた。
──嫌。
「嫌…!」
「落ち着けって。雪の為にやってるだけだ。じゃねぇと見つかっちまう」
見つかる?
見つかるって、誰に。何が。
「大丈夫だから」
「ッ──…!」
後ろから拘束するように抱きしめられたまま、耳に注がれる言葉にぞわりと悪寒が増す。
"大丈夫"
それは私の呪文。
幾度となく体を弄られる時の、呪文だ。