My important place【D.Gray-man】
第39章 夢現Ⅲ
「ゆっくり深呼吸しろ。ゆっくりでいいから」
「っ…は…ぁ…」
促されるままに深呼吸をする
叫び吼えた喉は微かに痛んだ
背中に回された腕が、ベッドに沈んでいた私の体を抱き起こす
そのまま緩く抱きしめられて、背中を擦られた
優しい大きな、手
「お前は人間だ。大丈夫、ちゃんと人間だから。何も変わりゃしない」
まるで私の恐怖を拾ってくれるように、優しくあやしてくれる声
…胸が熱くなる
滲んだ目元も熱さを増す
怒涛のように体の中を暴れまわっていた怨念はもうない
それとは別の何かがこみ上げて、目の前の体に縋り付いた
「…ふ…ッ」
「あー…よしよし。吃驚したよなぁ。いきなりあんなもんきたら誰でもビビるよな」
思わず震えた涙声が零れ落ちる
ぽんぽんと背中をあやすように撫でる手
言葉は優しいけれど、砕けた様子で話しかけてくる
なんだかその拍子抜けする口調に、自然と心は落ち着いた
…この人の声、凄く人間味があって…落ち着く
「…落ち着いた?」
目の前の体に縋っていた手の力を緩めれば
伺うように少しだけ離れる体
まだ視界は微かに涙で滲んでいたけれど
今度はちゃんと確かめることができた
「…あ…」
間近に覗いてくる顔
褐色の肌に、金色の切れ目の下の泣きボクロ
無造作にうねる癖の強い黒髪の下にあるのは、端正な顔立ち
…この人は…
「…ティキ…?」
…そうだ
前に会ったことがある
名前を教えて欲しいと、名乗ってきた知らない男性
「お。ちゃんと憶えてたみたいだな。感心感心」
名前を呼べば、軽く笑みを浮かべてくる
褐色のその大きな手で、まるで褒めるように頭を撫でられた
なんで…この人が、此処に?