My important place【D.Gray-man】
第39章 夢現Ⅲ
ドクドクと心臓が嫌な音を立てる。
息を呑んだ。
目が、離せない。
「…っ」
僅かなカーテンの隙間じゃ、よくは見えない。
でも確かに、あれはにんまりと笑った歯を剥き出しにした口だった。
「……」
恐る恐るベッドから降りる。
ドクンドクンと心臓が脈打つ音が、やけに大きく響くようだった。
一歩一歩、音を立てずに窓に歩み寄る。
伸ばした手は微かに震えていた。
なんで、急に。
カーテンに触れる自分の手は、褐色肌なんかじゃない。
ユウだっていつも通りだった。
私はノア化していない。
なのになんで、またあの影が現れたのか。
──シャッ
昨夜ユウがしたように、両手で勢いよくカーテンを開く。
まだ暗い朝は微かな薄明かりの空を見せているだけ。
シンとした静かな森を映す窓ガラスには、薄らと私が映っている。
「──!」
そして、背後に佇む人影も。
「…な…」
なん…で…
見間違えるはずがない。
直感でわかる。
これは、あの"ノアメモリー"だ。
窓ガラス越しに、私の背後から顔を半分覗かせてにんまりと笑っている。
歯を剥き出した口元しか見えない、不気味な白い影。
──…奴ヲ…
にんまりと裂いた口が動く。
何度も私に投げかけてきた、いい加減聞き飽きたその台詞を口にする。
──…許スナ…
そう笑いながら口にして、私の背後にぴったりとくっ付いて佇むだけ。
いつもそう。
静かに密かに主張してくる謎の影。
それが、動きを見せた。