My important place【D.Gray-man】
第39章 夢現Ⅲ
──どうした
──自分の名を忘れたのか?
…違う
忘れてなんかいない
でも
口が開けない
開いたら、別の単語が出てきそうで
…"あれ"は私の名前じゃない
──何故そう思う
だって…
あの人が呼んでくれた名前は
それじゃない
少し低い声で
熱のこもった声で
真っ暗な闇の中、私を抱きしめて呼んでくれた
その数文字だけで胸は酷く締め付けられた
口から出ようとしているのは
それとは違う
──あの人とは誰だ?
──主が今目にしている、あの者のことか?
…多分
きっとそう
──じゃがしかし、あの者が呼んでおるのは
──主ではないぞ
………そう…なのかな
──あの者には、もう隣に誰かがいる
──見てわかるじゃろう
声に促されるように
光の向こうに去っていく二人を見る
温かい木漏れ日のような光の中で
蓮華の花々に囲まれて
優しい笑みを浮かべて手を繋いでいる
なんて穏やかで
幸せそうな光景なんだろう
「………」
幸せに満ち溢れている姿
……なのに…
なんだか 哀しい
あの人の傍にいきたい
ちゃんと顔を見てみたい
……ちゃんと見てなきゃ駄目な気がする
そう、約束したような
そんな気が…した、のに
──ならば何故思い出せない?
……それは…
──あの者の隣には、もう別の者がいる
──あの者は一人ではない
──主が傍におらずとも、大丈夫であろう
大丈夫…?
──あの者を支えてやりたかったのであろう?
──ならば心配することはない
──あの者にはもう真っ直ぐに見ておる者がいる
──揺るぎない心で
──じゃから御主は、あそこには不要だ