• テキストサイズ

My important place【D.Gray-man】

第9章 黒の教団壊滅事件Ⅲ



 静かなトイレに響く、誰かの足音。


 カツン、カツ…カツン、


 どこか覚束ないような、辿々しい足音。
 それはあの病棟のトイレで聞いた足音に似ていた。
 まさかまだゾンビ化人間がいたのかな。

 ドアに背中をつけて、神田が息を潜める。
 その目は"動くな"とこちらを見てきて、黙って頷く。


 ギィ…バタン、


 トイレのドアの開閉の音。
 そして、


 カツン、カツン、


 再び足音。

 間違いない、あの時と一緒だ。
 誰かが、端から順にドアを開けていってる。

 此処は何番目のトイレか、わからない。
 でも覚束ない足音は、ゆっくりと確かに近付いてくる。
 誰かはわからないけど、きっと感染したゾンビ化人間の一人だ。

 今私達がいるトイレは、ドアに鍵を掛けていない。
 此処で掛けたら音できっと気付かれる。
 そうでなくても、やがて此処に辿り着いた足音はこのドアを開けるはず。
 となれば、すべきことは一つしかない。

 足音の主が目の前に来た時に、奇襲を仕掛ける。
 相手には悪いけど、此処で私と神田が感染したら、もう誰も生存者は残らないかもしれない。

 …間違えた、生存者じゃなかった。
 そもそも誰も死んでなかった。
 皆ごめん。


 カツン、カツン、…カツ、


 目の前のドアの前で足音が止まる。
 思わず神田を見れば、同じことを考えていたようで目が合った。

 こくりと頷く。
 チャンスは一度。


 ギィ…


 ゆっくりとドアが開く。
 僅かな隙間だけを開けた、瞬間。


 ガ…ッ!


 小さな体からは想像できない程の鋭い威力で、神田がドアを蹴り開けた。
 勢いよく開くドア。
 蝶番が外れそうな程の勢いに、ドアの前にいたゾンビ化人間は弾け飛ぶ。


 ──はずだった。




「……え?」




 神田が蹴り開いたドアの先。
 見えたのは、トイレの壁のタイルだけ。

 そこには、誰もいない。

/ 2637ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp