My important place【D.Gray-man】
第38章 幾哀心
「神田がそんな女性を作ることなんて、到底ないだろうと思っていたから」
「そんなって…」
「言わなくてもわかるだろう」
はっきりと言葉にしないのは、マリの優しさか。
ただその目は優しく細まって、私を見つめていた。
「ありがとう、雪」
「え?」
唐突なお礼に面食らう。
「なんでありがとう?」
「……私では救い出せないと思っていたからな」
救い出す…?
意味がわからず目で問えば、それには答えずマリは歩こうと私を促した。
促されるまま、マリの隣をついて歩く。同じ場所を目指していたのか、共に食堂に向かいながら。
大柄なマリだけど私を気遣うように、歩幅を合わせてゆっくりと歩いてくれる。
そういう自然と滲み出る優しさは、いつもの彼そのもの。
「ずっともどかしさを感じてたんだ。あいつは私を救ってくれたのに…私は何も返してやることができなくて」
「……」
そう、何か思い出すように呟くマリの横顔は、遠くを見ているようだった。
…そういえばいつも誰かしらによく喧嘩売ってるユウだけど、マリとは衝突してるところを見たことがない。
同じ部隊の仲間だし、マリの性格の賜物なのかなって思ってたけど…違ったのかな。
ユウとリナリーが幼馴染なように、マリも私の知らないユウのことを知っているのかもしれない。
「雪」
「うん?」
前を向いていたマリの顔が、私に向く。
視力を失って光を宿していないけれど、優しいその両の目は確かに私を見つめていた。
「あいつは馬鹿で不器用な奴なんだ。でも真っ直ぐな思いを持ってる。真っ直ぐ過ぎて…捕われてしまった、深い闇を抱えて」
「…うん」
何が、とは問いかけなかった。
果たしてマリが口にしたその"闇"が、私の知っているユウの過去のことなのかはわからないけど。
…世界を嫌うように生きているユウだから。
簡単に他人に吐き出せない何かを抱えていることは、知ってる。