My important place【D.Gray-man】
第38章 幾哀心
「「……」」
沈黙。
そして、
「じゃっ」
「ああ、待て待て」
くるりと背を向けて去ろうとすれば、それより早く肩を掴まれた。
がしっと、それはもうがしっと。
「その心音でわかってはいたんだけどな。はっきりとあいつの名前を呼ぶ女性なんていなかったから、つい嬉しくて笑ってしまったんだ。許して欲しい」
「心音て…! プライバシー侵害…!」
「ああ、落ち着け落ち着け」
ジタバタと暴れれば、大きな手が脇に入ってひょいっと軽々持ち上げられてしまう。
そのままくるりと体の向きを変えられて、向き合う形ですとんと地面に下ろされた。
目の前には、高身長のユウやラビを越す更に高い背丈。というか全体的に大柄な体。
「音は傍にいれば耳に入ってくるんだ。仕方ないだろう?」
耳に付けた拡聴器であるヘッドホンを指差しながら困ったように笑う顔に、それ以上は文句を言えなくて黙り込んでしまう。
…悪気がないのは、わかってたから。
盲目故か、逆にその聴覚は発達していて私達には聞こえない人の鼓動を拾うことができる。
目が見えないからこその、音で相手との距離や立ち位置を測る能力なんだと思う。
更にその心音で相手の精神的なものを読み取ることもできるとか。
そんな彼はユウと同じティエドール部隊のエクソシスト。
ノイズ・マリ。
「それにあんな場面に出くわしてしまったらな」
あんな?
「神田の部屋から朝帰りし」
「わーっ!」
朝帰り言わない!
慌てて声を荒げて遮れば、くくっとマリは面白そうに穏やかに笑った。
くそぅ、楽しんでるな絶対。
「マリは誠実な心優しきエクソシストだと思ってたのに…! からかわないでくれません…!?」
「悪い悪い。そんなつもりじゃないんだ。嬉しくてって言っただろう?」
ぽんぽんと、大きな手が宥めるように私の頭を撫でる。
子供扱いされてる気がするのに、そこまで嫌な気がしないのはマリの人柄だと思う。
…今はちょっと嫌だけど。