My important place【D.Gray-man】
第8章 黒の教団壊滅事件Ⅱ
ぞろぞろと迫ってくる亡者の群に、ドアから逃げ出すことは不可能だ。
ラビの体を抱いたまま、神田と共に備品室の壁際に追い込まれる。
「ど、どうしよう…今度こそ絶体絶命なんじゃ…ッ」
憎々しげに舌打ちした神田が、辺りに視線を巡らす。
その目が一点で止まったかと思うと、軽い身のこなしで棚の上に飛び乗った。
「こっちだ!」
幼くも鋭い足蹴りで破ったのは、部屋の天井にある通気口の四角い扉。
え、そこ私入るかな…!?
「早くしろ!」
「ちょっと待って…っ」
「オレは置いてけよ、雪…」
「でも…っ」
「へへ、大丈夫さー。リナリーに噛まれたんなら、まだ本望だし」
こんな時までチャラけたことを言うラビに、本当に呆れより感心が勝る。
「だから、早く行け。ユウのこと、頼んださ」
「っ…」
「月城! 早くしろ!」
目の前の力なく呟くラビと、背後で叫ぶ神田の声。
それに背中を押されるように、棚に足を掛けて通気口へとよじ登った。
ラビの体を、その場に置いて。
「ごめんラビ、絶対ワクチン作るから…ッ」
「ん。よろしくー」
ひらひらと力なく手を振るラビの小さな体が、亡者の群に飲み込まれる。
その瞬間を目にしながら、狭い通気口の奥へと身を捩じ込んだ。