My important place【D.Gray-man】
第8章 黒の教団壊滅事件Ⅱ
「リナリー! 無事ムグっ」
「ちょい待ちッ」
「黙ってろっ」
ドアの向こうから聞こえたリナリーの声に、思わず安堵で呼びかける。
途端にラビと神田に口を手で塞がれた。
何故。
「さっきもこんなことあったんさ。クロちゃんがドアの向こうで呼びかけてきたかと思ったら…ッ」
「ドアを開けた途端、襲ってきやがった」
え、嘘。
「だから安易に開けちゃ駄目だからなっ」
「呼びかけんのも禁止だ」
ラビが呼ぶクロちゃんとは、エクソシストであるクロウリーのことだ。
その体にはコムビタンⅮの原液が投与されている。
無言でこくこくと頷けば、やっと口を開放された。
どうやらゾンビ化した人は、無事なフリして近付いてくることもできるようだ。
…なんて怖ろしい。
そんなのバイオハザードよりタチが悪い。
『神田…此処、開けて。中に入れてくれる?』
ドアの向こうから呼びかけてくるのは、変わらない可憐なリナリーの声。
二人に止められなきゃ、簡単にドアを開けてしまっていたと思う。
「お前がリナだという証拠を聞かせろ」
静かに問いかける神田に、ドアの向こうで沈黙ができる。
その沈黙がなんだか怖い。
あの可憐な美少女をも、ゾンビ人間に変えてしまっているのなら…見たくないな、リナリーが涎垂らして徘徊する姿なんて。
コムイ室長はきっと泣きます。
『…小さい頃。嫌なことがあると、いつも座禅(ざぜん)の間に行ってたの』
ぽつり、ぽつりと。不意にドアの向こうでリナリーの声が語り始めた。
私の知らない、幼い頃の話。
『其処には、いつも神田がいて。一緒に何度も座禅をやったわ』
座禅って、あの仏教の座って行う精神統一のこと?
私は任務中の神田しか知らないから、初めて聞く話だった。
『神田は他の人と違って、色々詮索してこないから。一緒にいて楽だったの』
「ユウ、それほんとさ?」
「…ああ」
こそこそと聞いてくるラビに、神田が静かに頷く。
…そうなんだ。
神田とリナリーは幼馴染だと聞いていた。
幼い頃からこの黒の教団でエクソシストとして戦ってきた仲間。
私の知らない時間を、きっと色々と過ごしてきたんだろう。