My important place【D.Gray-man】
第8章 黒の教団壊滅事件Ⅱ.
「コムイ達と逸れる前に隠れてた部屋で、なんか女の声みたいなもんが聞こえて…あれはリナリーの声じゃなかった」
恐々と話すその姿は嘘を付いてるようには見えない。
と言うかそんな嘘、怖がりなラビはつかないはず。
「だからさ、強ち…ジョニー達が言ってたことも嘘じゃないかもって──」
「うん」
でも。
「そっか、怖かったね。よしよし、大丈夫大丈夫。ぐっすり一晩寝たら忘れてるから」
よしよしとラビの頭を何度も撫でる。
「雪…だから子供扱いすんなよ。怖いからって」
「よーしよしよし」
怖がってません。
ええ、怖がってませんとも。
いくら周りがバイオハザードで、いくらこの黒の教団の内装が暗く重いからって。
怖がっていませんとも!
「お子様はもう寝る時間です。夜更かしするから、そんな空耳聞いちゃうんです」
「うわ、現実逃避してるさ!」
「お前が言ってること自体が、非現実的だろ」
ぐりぐりとその頭を撫で続ければ、心外だとばかりにラビが立ち上がる。
神田の言う通り。
そういう話はもっと信憑性あるものを──
コンコン、
…こんこん?
「なッなんさ!?」
「お化け…!?」
「な訳あるか」
その場の空気を止めたのはノック音だった。
それは逃げ込んだドアの向こうから。
驚いたラビと反射的に抱き合う中、神田だけ一人呆れた顔で立っていた。
いやこのタイミングは驚くから…!
コンコン、
もう一度はっきりと、ドアの向こうからノックの音が木霊する。
息を呑む私とラビの前で、構えるように神田が一歩片足を後ろにずらす。
「…誰だ」
静かに問いかける神田の声に、一瞬沈黙ができる。
『その声…神田?』
ドアの向こうから僅かに聞こえた声。
それは。
「……リナリー…?」
か細く、可憐で。
コムイ室長の実妹で、エクソシストである女の子。
リナリー・リーの声だった。