My important place【D.Gray-man】
第8章 黒の教団壊滅事件Ⅱ
けれど。
「…うわぁ」
「亡者の群さ…」
「あの人数は回避できねぇぞ」
通信室に進む通路の途中には、沢山のゾンビ化人間がたむろしていた。
廊下の角からその様子を三人で伺い意気消沈。
神田の言う通り、流石にあれだけの人数の中を無傷で通れる可能性は低い。
「仕方ない、通信室は諦め──」
「ガルル…」
無理に危ない橋は渡れないと、溜息混じりに通路に背を向けて。見えたのは涎を垂らす半開きに開いた口。
…え。
「ガァアア!」
「うわ…!」
「げっ! 雪!」
「こいつ…ッ中央庁の奴か!」
襲い掛かってくる体に咄嗟に反応できなくて、馬乗りになる形で床に押し倒される。
視界一杯に広がったのは、金色のパッツン髪に額の二つの赤い黒子。
──リンクさんだ。
「リ、リンクさんッストップ!」
「馬鹿、言っても通じねぇよ!」
噛み付こうとしてくる肩をなんとか押し返すけど、思った以上に力は強くて抗えない。
「ガァアア!」
大きく開けて吠えるその口から、ほとばしる唾液がぼたぼたと私の顔を濡らす。
あの学校の風紀委員みたいな、身形も秩序も正しいリンクさんが! 目も当てられない状態に…!
「クソッ…頭上げんなよ!」
「グガッ!」
神田の声が聞こえたと同時に、ドゴッ!と鈍い音がしてリンクさんの顔が横に吹き飛んだ。
神田の鋭い蹴りが、容赦なく顔面に入ったらしい。
「あ、ありがと…うあ、」
なんとか体を起こしながら、顔を濡らしたリンクさんの唾液を拭う。
く、口まで濡れてしまった…。
「チッ。ツラ貸せ」
「ぅぶっ」
ベタベタするそれを座り込んだまま拭ってたら、口に神田の腕を押し当てられた。
そのまま服の裾で強く拭われる。
「飲み込むな、感染する」
「う、む、ん…ッ」
いや、そこは大丈夫かな。
口の中には入ってないから。
入ってないのは、わかってるから。
だからそんなに痛くゴシゴシしないで下さい…!