My important place【D.Gray-man】
第36章 紡
「たかが名前だろ。だから呼べよ、そうやって」
「え…呼ぶって…え?」
笑って言えば、見上げてくる雪の目が驚きで丸くなる。
「ぉ…怒らない、の?」
「ああ」
お前が俺に、この今の俺を認めさせてくれたんだ。
だから呼んでろ。
"今"の俺を。
「え、と…じゃあ……ユウ」
ぽそぽそと、だけどさっきよりはっきりとした口調で呼ぶ"俺"の名。
それだけで、まるで何か満たされるような感覚。
「…そういえば…なんで…"神田"、なの?」
「あ? 何が」
「ファミリーネーム。…だってそれ…」
そこまで聞いたかと思えば、言い難そうにもごもごと口篭る。
…ああ。
そういや俺の体のことを自分で調べたって言ってたか。
それならその名が偽名だってことも知ってるんだろう。
「…ティエドール元帥が付けたんだよ。教団に入団する時に」
「え? 元帥が?」
アルマを切り捨てて、あの人を追う道を選んだ俺の前に現れた、マリ以外のエクソシストはあの元帥が初めてだった。
廃棄物と瓦礫と塵しかない、青い青い空の下。
アルマの血に染まった六幻だけを手にして、そして其処から逃げ出した。
そんな俺を拾ったのはあの人だった。
「入団するなら必要だってな」
最終的に教団に残ると決めた俺の意志を認めて、通してくれた。
『それじゃあ君は今から神田ユウだ。そう名乗りなさい』
『カンダ…?』
『君が育った御戸代の世界。それはね、神の田んぼという意味なんだ』
由来なんざどうでもよかった。
"ユウ"と呼ばれるとアルマのことを思い出す。
唯一その名で呼ぶのを許した、あいつとの過去が蘇る。
それが嫌だった。
だから別の名が付くなら都合が良いから、受け入れた。
ただそれだけ。