My important place【D.Gray-man】
第36章 紡
初めて触れたその体は、どこもかしこも柔らかかった。
「──…好き」
体だけじゃない。
その声も、言葉一つだって。
俺の心を包み込むように柔らかく届く。
月城が──……雪だけが俺に感じさせるもの。
「神田が、好き」
初めて現実の俺を見て届けてきた言葉は、たった数個の単語なのに、俺の意識を一瞬止めるには充分だった。
戸惑いなくすんなりとこいつが発した想いは、いつも簡単に俺の胸を貫く。
「…ああ」
けれど今はそれ以上の"想い"に心が包まれて、気付けば自然と体は動いていた。
「俺も──…好きだ」
目の前の柔らかい体を抱きしめて感じるもの。
…嗚呼、これか。
任務に行く前に、俺を見送る雪の笑顔を見た時にじんわりと染み渡っていたもの。
あの時はあれがなんなのか、よくわからなかったが…今なんとなく理解できた。
多分これが…人の言う"幸福"ってやつなんだろう。
「……」
暗闇の中で感じるのは、どこもかしこも柔らかい体だけ。
五感で感じながら想いに身を委ねていると、腕の中にあるその体から力が抜けた。
「…雪?」
疲れがきたのか。
伺うようにそっと顔を離す。
暗闇に慣れた目で見えたのは──
「…す…ぅ…」
「……」
思いっきり寝息を立てる姿。
……オイ。
「おい、」
「…すー…」
「…雪」
「…ん…」
「……テメェ」
このタイミングで寝落ちるんじゃねぇよ…!
「どんだけ寝付きいいんだよ、テメェは…っ」
思わず項垂れる。
このタイミングで意識飛ばすか、普通。
いくら疲れたからって──
「……」
…そういや昨夜は寝付けなかったって言ってたか。