My important place【D.Gray-man】
第36章 紡
「じゃねぇとこのまま襲うぞ」
「!?」
逃げ出せない状態で強制的に催促すれば、その顔は驚きに満ちる。
やがて観念したのか、ゆっくりとその口は開かれた。
「………ゅ……ユウ」
か細い声。
目線を逸らしながら、赤い顔で俺の名前を呼ぶその声に嫌な気はしなかった。
寧ろ──
「…やっぱりな」
「え?…っ!? 何…っ呼んだでしょ…!?」
肌に顔を寄せれば、焦る雪の声が上がる。
「もう一回」
「えっ?」
「名前」
「な、何…ユ、ウ?」
頬に顔を寄せて目を瞑る。
そのまま催促すれば、耳に届くぎこちない呼び声。
口にする俺の名前。
その名で呼ぶのを認めたのは一人だけだった。
"きみはね、YUってゆーんだって"
嬉しそうに俺の名前を知らせながら、照れ臭そうに自分の名前を名乗ったあいつだけ。
"えっと、ぼくはね…ALMAってゆーんだって"
"YU"
その名が嫌いだった。
俺には本当の名前じゃない、この体を示すただの暗号名みたいなもんだったから。
ただアルマが俺の名前を呼ぶ時だけは、嫌な気なんてしなくて。
"はっぴーばーすでぃ、ユウ"
あいつが呼ぶ声だけは──…素直に受け入れられていたように思う。
「ユウ、ってば…ちょ、ほんとに…ッ」
肩を押し返してくるその手に従って、素直に身を退く。
顔を離して見えたのは、俺の名を呼ぶ雪の赤い顔。
「…やっぱりそうだ」
「やっぱりって…だから、何が」
アルマと同じだ。
その声で呼ばれるなら嫌な気なんてしない。
……寧ろ心地良くさえ思う。
それは…雪が見ている"神田ユウ"としての俺を、少しは認められたからかもしれない。