My important place【D.Gray-man】
第36章 紡
「…んだよ急に」
「なんか急に言いたくなって…それだけ」
じりじりと焦げ付く胸の奥底から欲が溢れそうになって、止める意味でも素っ気無く返す。
すると頬を寄せたままぽそぽそと恥ずかしそうに、雪は返事を寄越した。
「神田のこと、凄く好きだなって…なんか、そう思ったから」
「…じゃあ顔見て言えよ」
そんな甘えた仕草で言うな。
欲が出るだろうが。
「え。それは…ちょっと…」
「なんでだよ。ヤることヤったのに今更それくらいで恥ずかしがんな」
「っ! ぉ、思い出させないでよ…ッ」
はっきり言ってやれば、薄暗くてもわかるくらいに雪の顔に赤みを増す。
…つか、なんで思い出したら駄目なんだよ。
「今更だろ。お前だって服を脱げだ名前を呼べだ催促し」
「わーっ!」
なんとなく気に入らなくて詳細を伝えてやれば、あたふたと大声を上げる。
朝っぱらからんな大声出すな、喧しい。
「大体、神田も急に下の名前とか呼ぶの反則だからあれ…っ」
なんだ、しっかり憶えてんじゃねぇか。
赤い顔のまま言い返してくる雪に、枕に頬杖をついて息をつく。
「たかが名前だろ。大袈裟に反応し過ぎなんだよ」
「それなら…神田だって大袈裟に反応し過ぎでしょ。ラビにファーストネーム呼ぶなっていつも怒ってるし」
その言葉にはつい体が反応してしまった。
…そういやそうか。
「……」
「……神田?…何、黙り込んで──」
「呼んでみろ」
「へ?」
ぽかんとマヌケ面する雪に、試してみることにした。
「ファーストネーム」
「…え。」
すると一瞬沈黙を作った雪の顔が──…なんで青くなってんだお前。
「呼んだ瞬間殴るつもりですか…」
「しねぇよ阿呆。いいから呼んでみろ。それから考える」
「それからって何っ? 殴るかどうか!?」
違ぇよ馬鹿か。
距離を取ろうとする雪の肩を掴んで身を起こす。
「っ!?」
「御託はいいから呼んでみろ」
そのまま体をシーツに押し付けて、上から被さる体勢で止めれば雪の顔に赤みが増して、その体は固まった。