My important place【D.Gray-man】
第36章 紡
「わからなくなるなら教えてやる。…お前はお前だ。予測不能の阿呆で甘え下手でなんでも我慢ばっかしてすぐ呑み込んで、本当面倒臭い奴」
「んな…っ」
迷いなく言い切れば、忽ち雪の顔がショックを受けたものに変わる。
「それ貶してるだけじゃ──」
「それが俺の好きになった奴だ」
面倒だけど、手間がかかるけど。そんなこいつを嫌だとは思わない。
…最近じゃ逆に、その分こいつの手を引いてやりたいと思うようになった。
「俺が一緒に生きたいと思える奴だ」
真っ直ぐに見下ろして言えば、驚いた目が丸くなる。
吐き出そうとしていた言葉は止まって、代わりに。
「っ…」
零れたのは、泣き出しそうな吐息。
…そうやって泣きそうな顔はする癖に、中々涙は流さない。
俺も胸張れたもんじゃないが、こいつも色々と不器用だと思う。
だからこそ、その手を引いてやりたい。
「……ごめん」
噛み締めた唇から漏れたのは、謝罪だった。
「…ありがと…」
それと確かな感謝の言葉。
「……私、云うから」
泣き出しそうな顔で、でも涙は見せずに。ぐっと唇を噛み締めて、はっきりとした声で雪は言った。
「今はまだ不安定なものだけど…形になったら、ちゃんと云う」
しかと俺を見て言う言葉に迷いはない。
「ちゃんと伝える。真っ先に、神田に。…だから待ってて」
修練場での休憩中に、雪が俺に漏らした僅かな本音。
言えるかどうかもわからないと言っていたその曖昧な気持ちに、決心がついたのか。
俺を見る目に迷いなんて見当たらなかった。
「言っただろ、いくらでも待つって」
答えなんて決まってる。
僅かに口元に笑みを浮かべて応えてやれば、やっとその顔はくしゃりと笑った。
泣きそうな顔じゃなく、柔らかい表情で。
「うん──…」
そのまま擦り寄るように胸に頬を寄せてくる。
そんな甘えた仕草は、あの風邪で夢と勘違いしていた雪が一度だけ見せた姿と重なった。
「…神田、好き」
ぽつりと、端的に紡がれる好意の言葉。
たったそれだけの言動なのに、目が離せなくなった。
…じり、と胸の奥が焦げ付く。