My important place【D.Gray-man】
第36章 紡
「わからないことだらけで……怖い、の」
消え入りそうに届いた言葉は弱音。
雪がそんな声で"怖い"だなんて弱音を吐くのは初めてで、思わず目を見開く。
…何が"わからない"のか。
恐らく問いかけても、今のこいつは答えられないんだろう。
「自分が、自分じゃ…ない、ようで…」
消え入りそうな声で、ぽつぽつと弱音を零す。
その言葉一つ吐き出すのもやっとな雰囲気は、やっぱりあの中庭での雪と同じだった。
必死にその場に立っていた、一歩間違えれば崩れ落ちそうにさえ見えたあの時と。
「自分じゃ…なくなっていく、みたいで…」
何か自分の中で変化でもあったのか。
…確かに最近のこいつは変わった。
見せなかった表情を向けるようになったし、拙くても思いを吐き出すようになった。
そういう意味なのか。
理由はわからないし、俺はモヤシみたいに優しい言葉も、馬鹿兎みたいに的確な言い回しも思いつかない。
それでもそんな雪の姿に、自然と言葉は口をついていた。
「…怖いなら俺が見ててやる」
「…え…」
腕の中で僅かに上がる顔。
やっと見えたその顔は、やっぱり不安げな空気を纏っていた。
「自分を見失うってんなら、代わりに俺が教えてやる。お前をずっと見ててやる。怖いなら傍にいろ」
俺がこいつに惹かれたのは、教団で一緒にいるからじゃない。
阿呆みたいに何度も任務で組まされたからじゃない。
「お前が教団の人間だったから好きになった訳じゃねぇよ。雪だったからだ。エクソシストもファインダーも関係ない」
AKUMAのウイルスにやられて、こいつが死ぬんだと悟った時。勝手に体が動いていたのは、当たり前に傍にいた存在が消えるその反動かと思っていた。
…でも違う。
今ならわかる。
こいつを死なせたくないと思ったからだ。
失いたくないと思った。
だからあの時頭で考えるよりも早く、体は動いていた。