My important place【D.Gray-man】
第36章 紡
それが雪から初めてされた口付けだと理解するのに、一瞬時間を必要とした。
その一瞬の間に静かに離れる雪の顔。
暗い目に俺を映して、ふわりと微笑む。
「うん」
それは確かに笑っていた。
笑っているのに、目元は少し泣きそうな。
そんな顔。
「っ…」
俺の心を鷲掴みにする、その顔だった。
「わ、何…っ」
衝動のまま強く抱き寄せる。
「神田? ちょっと…っ」
「…だから余計な心配はすんな」
胸にその顔を押し付けさせたまま、云うべきことを吐き出す。
「言っただろ。お前を置いて死んだりしない」
一緒に生きていたいと言った言葉への答えなんざ、考えるまでもない。
俺がそうだから。
「お前くらい背負い込む覚悟はできてる。だから心配すんな」
俺がいたいんだ、こいつと。
馴れ合いなんかじゃない。
傷の舐め合いでもない。
俺が欲したんだ、雪自身を。
…だから心配するな。
お前の前から消えたりなんてしねぇから。
「…本当に…?」
俺の胸に顔を埋めたまま、掠れた雪の声が届く。
「……私が…………普通…じゃ、なくても…?」
「…は?」
そのあまりに突拍子もない問いに、思わず思考は中断した。
…急に何言ってんだお前。
大体、
「普通じゃないって…お前、元々普通じゃねぇだろ」
「はい?」
「こんな予測不能の阿呆、俺はお前以外に知らねぇよ」
何をもって"普通"なんて言ってんのかわかんねぇが、お前みたいな奴俺は他で見たことねぇからな。
「いや、そういうことじゃなくて」
じゃあどういうことだよ。