My important place【D.Gray-man】
第36章 紡
それと同時に、ふと感じたこと。
「……お前には人間に見えんのか」
気付けばそれは勝手に口から漏れていた。
「俺が」
問いかければ、胸に額を押し付けていた雪の顔が上がる。
その顔は不思議そうに、ぽかんとしたもの。
「当たり前だけど」
そして迷う素振りも見せずに、当たり前に頷いた。
「私、神田のこと人間じゃないなんて思ったことないけど」
何気ないその言葉が俺の心を包む。
こいつにとっては何気ない言葉でも、俺には大きなもんが多い。
「……俺は生まれた時から、"第二使徒"って枠組みを付けられてた。調べたなら知ってんだろ」
「……うん」
こいつはそういうこと、気付いてんのか。
…多分気付いてねぇだろうな。
「俺のことを"人"として呼んだ奴は、周りにいなかった。…別にんなこと気にしたことねぇが、だから俺は人間とは違うもんだと思ってた」
どうしてそんな話をしたのか。
雪が自分の過去を語ってくれたように、俺も伝えたいと思ったからなのか。
わからない。
けれど、
「お前みたいに、俺のことを知っても人間だなんて言う奴は珍しいと思ってな。それだけだ」
「……そっか」
こんなにすんなりと過去のことを話せたのは、雪が初めてだった。
俺の体のことを知って、当たり前に"同じ"だと言う。
他人が同じことを言ったって、恐らくなんとも思わない。
…こいつだからだろうな。
雪がくれる言葉だから、きっと届くんだろう。
「それでも…私には、神田は人間だよ。だって他の誰でもない、神田が私に教えてくれたから。…自分以上に他人を想える気持ち」
噛み締めるように呟いて。そうっと見上げてくる二つの目。
「…人を愛するって、そういう気持ち」
その目は僅かに緩んで、優しい笑みを浮かべた。
「そんな気持ちを抱けるのは、人だからでしょ」
一瞬だけ重なった。
「ありがとう」
沢山の蓮華の花に囲まれて儚く笑っていた
──"あの人"と。