• テキストサイズ

My important place【D.Gray-man】

第36章 紡



「…でも、前より…濃く、なってない…?これ」

「俺の中にある"命"を消費すれば、それに比例してでかくなる。…多分そんなもんだろ」

「多分って」

「詳しくなんて知らねぇよ。呪符の構造なんて興味ない」


 恐る恐る問いかけてくる雪に、興味なく返す。

 大きさが変わろうが体に負担がかかる訳でもない。
 …再生速度は遅くなってる気はするが。


「……あんまり、無理しないで」


 するとじっと呪符を見ていた雪の顔が、僅かに歪んだ。


「体…もっと大事にして」


 唇を噛み締めて、まるで痛みを感じるかのように呟く。


「神田は確かに強いけど…死んでも生き返る体を持ってるけど……でも、人間なんだから」

「………は…?」


 そんな雪の反応は、あのローマの闘技場で死にゆく俺を見ていた顔と一瞬重なった。
 だがそれ以上に予想外の言葉がきて、思わずマヌケに声は漏れてしまった。


「痛みだって感じるでしょ。私と同じに、空気を吸って生きてるでしょ」


 そんな俺の反応に怪訝な顔を向けてくるものの、雪の口から発せられる当たり前の響きは変わらない。


「人と少し違うだけで、同じ人間なんだから。いつか私と同じに…"死"だってくる」


 確かに痛みはある。
 息だって止めると苦しくもなる。
 それは確かに当たり前のもんだったが、それを"同じ"だと言われたことなんてなかったから。
 ただ驚いた。


「私は…神田と生きていたい。一緒にいたいよ」


 俺の胸に額を押し付けて、くぐもった小さな声が呟く。
 それはまるで切望しているかのような響きだった。


「だから…あんまり自分を酷使しないで」


 自分の体を他人にとやかく言われることに、今まで良い気なんてしたことはないのに。
 こいつの切望する声は、不思議と俺の心を包み込んだ。


 …嗚呼、そうか。
 あの時と同じだ。

 普段は薄ら寒くしか感じない賞賛の言葉も、こいつから貰うものだと素直に"嬉しい"と感じられた。

 今のこれも同じ。
 こいつに親身に心配されることを、俺は"嬉しい"と感じてる。

 欲する相手から貰える言葉が、こんなに大きなもんだったなんて。

 驚きと同時に、それは確かに俺の心を包み込んだ。

/ 2637ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp