My important place【D.Gray-man】
第36章 紡
過去なんて今更悔やんでも仕方ない。
それならせめて、今はこいつの傍にいてやりたい。
その思いを込めて、隙間なく身を寄せてその体を抱きしめる。
「……うん」
くすぐったそうに肩を竦めて、傍で聞こえたのは柔らかな声。
「…あったかいね」
多分その顔は、またその声と同じに柔らかい表情をしているんだろう。
…そう思うとまた気にかかる。
もう見てもいいだろ。
「それと、どうせならこっち向いて寝ろ」
「…え」
「昨日は希望通りに部屋を暗くしてやったろ。お前の顔、まともに見れてねぇんだよ」
暗闇でもそれなりに見えたものは見えたが、はっきりとまでは見えなかった。
肌だけじゃなく、ちゃんとその顔も見ていたい。
つーかいい加減見せろ、背中ばっか向けやがって。
「おい」
「……え、と」
「雪」
「っ」
それでも中々振り返ろうとしないそいつの名前を呼べば、ぴくりと肌が反応した。
「こっち向け」
「…ぅ…」
ゆっくりと躊躇するように振り返る。
腕を緩めてやれば、胸元を隠すように両手を合わせて見てくる目と重なった。
こんだけ近いんだから、下手に体なんて見えねぇよ。
そんな恥ずかしがんな。
そう言いたくもなったが、小動物みたいにそわそわと視線をさ迷わせる姿は割と面白くて。黙って見守ることにした。
「──…ぁ」
さ迷っていた目が、ふと一点で止まる。
視線を感じたのは左胸。
…ああ、これか。
「…んなジロジロ見んな」
「ご、ごめん」
言えば、罰が悪そうな顔で素早く視線が外される。
そういう意味じゃねぇよ。
「別に怒っちゃいない。お前はこれがなんなのか知ってんだろ、調べたんなら」
「…あ」
「こんなもん、ただの刺青みたいなもんだ」
その手首を掴んで、敢えてそこに触れさせた。
左胸に刻まれたその呪符に。
第二使徒として刻まれたもんだが、隠そうと思ったことなんてない。
突っ込まれたら面倒だから答えないだけで。
あってもなくても、別にどっちだって俺には変わらないもんだ。