My important place【D.Gray-man】
第36章 紡
「え? な、何が」
「ガキみてぇに、ベッドの隅で縮まって寝てんだろ。体痛まねぇのかよ」
抱き寄せたまま問いかければ、ぎこちなく体を強張らせながらも雪は逃げる素振りを見せなかった。
いつも何かしら逃げ出そうとしていた奴だから、そんな些細な行動にも胸が満ちる。
そんな感覚。
「癖みたいなものだから…体は痛くならないよ」
「どうやったらそんな癖つくんだよ」
背中を向けたままの雪の顔は、未だ見えない。
覗き込むより先にその疑問が浮かんで問いかけた。
「そのうちベッドから落ちるぞ」
いつもいつも、雪の寝姿は小さなガキのようだった。
どんなに広いベッドでも体を丸めて縮まって、隅っこに齧り付いていた。
何をどうしたらそんな癖がつくのか。
「……昔…住んでた家のベッドが…ちょっと、小さかったから」
返ってきた言葉は予想外のもので、思わず口を閉じる。
「住んでた家も、建て付け悪くて…隙間風が多かったから、冬場は寒くて。縮まって寝る癖がついたんだと思う」
自分の親のことを話したのも一度だけ。
こいつは自分のことを多く語らない。
そんな口から発せられた、過去の話。
「…それは野生児みたいな食生活してた時か」
「あー…うん、まぁ」
食生活の話を聞いた時もそうだったが…こいつは"普通"と言われる生活に比べれば、割と劣る生活をしていたらしい。
「色々と貧困暮らしはしてたかな。裕福じゃなかったから」
その声に悲しむ響きは感じられない。
思い出すように呟くだけ。
雪がそういう自分を嘆くような性格じゃないことは知ってる。
だからその反応は予想通りのものだった。
けれど。
「…じゃあ縮まってでもいいから、寝る時は傍で寝ろ」
「え?」
「それならもう寒くねぇだろ」
少しだけ胸が締め付けられた気がした。
他人の過去なんて興味ない。
雪のその過去だって既に起きたこと。
今更何か思いを抱えたって仕方ないこと。
なのに、こいつがそういう身で暮らしていた時に傍にいてやれたら、と思う自分がいて。
そんな自分自身の思考に驚いた。