My important place【D.Gray-man】
第36章 紡
「おい、何黙り込んでんだよ。聞こえてんだろ」
「っ…ぉ…おはよう…?」
強めに催促すれば、恐る恐るという様子で首だけ振り返ってくる。
途端、その顔が驚きに満ちた。
どうせ俺の体見て驚いてんだろ。
「言っとくが、お前も同じ恰好だからな」
「!?」
想定内の反応に律儀に教えてやれば、自分の体を見下ろした雪が弾けるように再び背を向ける。
…わかり易い奴だな。
「…私…あのまま、寝落ちちゃったの…?」
「お前昨日、よっぽど寝てないだろ。体拭いても全く起きなかったし」
どんなに触れても、全く起きる素振りは見せなかった。
どんだけ寝てねぇんだよ。
それも心配だったが、それ以上に気掛かりなことが一つ。
「それより体の方はどうだ」
「え?」
「まだ痛むんだろ」
背中を向けたまま、またベッドの隅に齧り付いている雪に問いかける。
さっき確かに痛いと口にしていたからな。
これで大丈夫なんて言いやがったら──
「…大丈夫」
…オイ。
「……本当かコラ」
また我慢してんじゃねぇだろうな。
幾分声を低めに問いかければ、その布団から覗く肩が僅かに揺れた。
「少しは、痛いけど…我慢できない程じゃないし」
ぽつぽつと背中を向けたまま返される声に、動揺は見られない。
「だから大丈夫だよ」
…多分、本音なんだろう。
こいつは任務でよく怪我を負ってた身。
我慢し慣れてるのは本当のことだ。
「………無理はすんなよ」
それでもその痛みは俺が与えたもんだから、なんとなく軽視はできなくて。
そう告げれば、顔は見えなくても雪の雰囲気が柔らかく変わるのを感じ取れた。
「…うん」
恐らくその顔は纏った雰囲気と同じに、柔らかいものに変わってる。
そう思うとその顔を見たくなった。
「──つか、」
もういいよな。
起きてんだし。
「わッ」
「お前、それいつもやるよな」
腕を伸ばして背後から抱き寄せる。
布団の中だから満足に肌は見えないけれど、ぴたりと触れた体は確かに生の人肌。
それを感じて、不思議とほっとした。
…やっぱり俺はこいつに触れていたいらしい。