My important place【D.Gray-man】
第36章 紡
「──……」
とりあえずと汚してしまった雪の身形を綺麗にして、布団に包まったままその体を腕に抱えた。
「…どんだけ寝不足だったんだよ」
なるべく起こさないようには触れたつもりだったが、そんな気配すら見せずにこいつはぐーすか寝ていた。
…それだけ寝不足だったのか。
そう思えば、無理させてしまったかと不安も少し浮かんだが。
『嫌じゃ、ないよ』
体を求めた俺に、嫌じゃないとこいつははっきり口にした。
その手を俺の背中に回して、行動で応えてくれた。
…あんなことされて我慢しろって方が無理だ。
「…ん…」
「?」
すると不意に腕の中の存在が動きを見せる。
寝返りを打ったかと思うと、俺に背を向けてもぞもぞと──…オイ待てコラ。
「寝惚けてんのかこいつ…」
耳を澄ませば、すぅすぅと立てる寝息は変わらない。
恐らくただの寝返りなんだろうが…なんでわざわざ俺の腕の中から抜け出して、んな隅っこで丸くなってんだよ。
「…面倒臭ぇ癖持ちやがって」
そういやこいつの寝姿を見かけた時は、いつもこんな格好で寝ていた。
ベッドの隅っこに齧り付いて、ガキみたいに小さく体を丸めて。
単なる癖なんだろうがなんとなく気に入らなくて、その体に両手を伸ばしてもう一度抱き寄せる。
しっかりと後ろから抱きしめて、その首筋に顔を埋めて。
「…んん…」
僅かに身動いだものの起きる気配はない。
その寝付きの良さに感心さえしながら、深く息を吸った。
雪の肌の匂いと、その温もりを感じながら目を瞑れば。ローマの闘技場で意識を飛ばした時と同じ。
心地良い微睡みがゆっくりと俺の意識に覆い被さってくる。
目を瞑る。
完全な闇の中に身を預ければ、感じるのは腕の中の確かな体温と呼吸音。
腕の中にすっぽりと入るくらい小さな体の癖して、まるで包み込んでくれているようなその存在に身を委ねながら。
意識は、ゆっくりと落ちていった。
それは優しい闇。