My important place【D.Gray-man】
第35章 抱擁
「本気で嫌なら、そう言え」
もう一度、念を押すように囁かれる。
顔は見えないから、どんな表情をしているのかわからない。
でもその声は普段よりずっと優しい。
…こうやって自室に引き摺ったり有無言わさないところは、相変わらずなのに。
額の十字傷の消毒を拒んだ時もそう。
本当に嫌がるならしないと言って、優しく額に触れてくれた。
想いが通じ合っても、前と変わらず暴君なところは暴君なのに。
相も変わらず、手を上げてくる時は上げてくるのに。
…気遣うところは、気遣ってくれてる。
大事にしてくれてる。
そんな神田の思いに触れて、胸の奥がきゅっとした。
「……嫌…」
そんな思いに触れたのに。
「…じゃ、ない」
嫌だなんて、言えるはずない。
「嫌じゃ、ないよ」
もう一度、今度はしっかりと告げてその背中に手を回す。
恥ずかしかったけど、私を求めてくれるのは…嬉しいから。
するとまるで驚いた様子で、耳から離れた神田の顔が間近に私を見た。
まじまじと見てくる顔は、意外そうに。
…お、可笑しかったかな。
今の。
「……」
「…何」
その沈黙に耐えられなくて問いかければ、神田の口角が上がって──…あ。
優しい笑み。
「もう待ったナシだからな」
「…うん」
思わず顔が熱くなる。
そう呟いた神田はさっきとは打って変わって、ゆっくりとした動作で距離を縮めた。
唇に触れる、相手の体温。
それは酷く優しいものだった。