My important place【D.Gray-man】
第35章 抱擁
「チッ」
まさかそんな思いを抱えてくれてたなんて、予想外過ぎてまごついていると。
若干まだ耳を赤くしたまま、小さく舌打ちした神田が目の前から体を退いた。
──あ。
「っ」
「…あ?」
離れていく体に気付いたら、その団服を強く掴んでしまっていた。
引き止められる体に、怪訝に向いた神田の視線とぶつかる。
まだ触れていたい。
神田の傍にいたい。
その思いは自然と体を動かしていた。
「…も、もうちょっと…触れてて、いいですか…」
握った団服を離さずにおずおずとそう言えば、ぱちりと睫毛の長い切れ目が瞬いた。
「……お前それわざとか」
「へ?」
わざと?
意味のわからない問いに思わず腑抜けた声が漏れる。
わざとというか、本音なだけですけど。
「言っただろ、お前のこと女として見てるって」
「え、…っ?」
離れようとしていた体が、再び触れる。
寄せられた口は私の耳元で、吐息が耳朶をくすぐって思わず息を呑んだ。
「こっちは色々触れんのを我慢してんだよ」
「ぁっ、」
傍に感じていた唇が、耳に触れる。
驚いて声が漏れれば、一瞬唇の動きが止まる。
するとそのまま耳朶を挟…えええええ。
み、耳っ
なんか耳に噛み付かれてますっ!
「か、神…っな、にッ」
「誘ったのは月城だからな」
さ、誘ってない誘ってない!
密着した体が、私の体をドアに押し付けてくる。
噛むというより唇で耳朶を挟まれて、そのまま耳の縁を舌先が辿るように舐めてくると流石に焦った。
え、いや、ちょっと待って。
待って神田さん待って!
「誘ってなんか…っちょ、っと待っ…」
すぐ目の前にある胸板を押し返しても、ビクともしない。
突然のこの状況に軽くパニックになりかけていると、不意に神田は動きを止めた。
「…本当に嫌ならしない」
耳から離れた口からぼそりと告げられた声は、小さなものだった。