My important place【D.Gray-man】
第35章 抱擁
「ノアなんて気にするな。余所見する暇があるなら、しっかり俺を見てろ」
……大丈夫だよ。
「…うん」
言われなくても、ちゃんと見てる。
私が見ていたいのは、迷いなく神田だから。
「じゃあ神田も…私のこと、見ててね」
私の傍で。
そしたら私も、しっかりと神田だけを見ていられる。
不安や戸惑いがあっても、この人の傍にいたいと、きっと意思を強く持って立っていられるから。
「当たり前だろ」
ぶっきらぼうな返事は神田らしくて、優しい言葉じゃないのに、それは確かに私の心を包んでくれた。
まるで見えない何かで包んでくれるような、漠然とした抱擁感。
それはきっと神田だからこそ、貰えるものなんだろう。
「見てんだから、もうちょっと考えて行動しろよ。お前は」
「え? 何が?」
「こんな格好、俺がいない所でするんじゃねぇよ」
不意に呆れた顔して、神田がミニアルバムを掲げる。
…あ。
すっかり話題が逸れてしまって、そのこと忘れてた。
「だから偶々話の流れで──…って、」
ちょっと待って。
それって。
「もしかして怒ってたのって…それが理由?」
なんであんなに怒ってたのか、全然わからなかったけど。
「……」
あ、無言の肯定。
ということは、それでピリピリしてたんだ。
「…俺の為なら、俺の目の前でしろ」
神田の目が私から逸らされる。
「他の野郎の前でだけ晒すなんざ、冗談じゃねぇ」
「……」
えーっと……それって、つまり……
「……ゃ…やき、もち?」
もしかして。
「……」
あ、思いっきり顔逸らした。
……あ、若干耳が赤い。
「え、ええと…」
どうしよう。
なんか、凄くきゅんときたんですけど。
どうしよう。
…凄く、嬉しいんですけど。