My important place【D.Gray-man】
第35章 抱擁
「ごめ──」
思わず出た謝罪の言葉は遮られた。
短い距離を詰めて、口に触れたその唇で。
「…謝んな。嫌だなんて思ってない」
触れただけのキスは、酷く優しかった。
「お前のそれは、お節介とは違うだろ」
…お節介?
「最初はそうかと思ったけどな。モヤシみたいな博愛なら別に要らない。無償の愛だとか、そういうもんには興味ない」
あ、なんかそれ神田らしい気がする。
…だからアレンと馬が合わないのかな。
「でもお前のそれは違うだろ。…俺だからって言っただろ、お前」
『お前みたいなのを、お節介っつーんだよ』
『いいよ、お節介でも。…神田になら』
それはゾンビ化事件で、暗い通気口の中で神田と交わした会話だった。
お節介なんて思っていなかった。
そんな気持ちで抱いた思いじゃなかったから。
エクソシストは皆、常人より大なり小なり色々な経験をしてる。色々なものを抱えてる。
だからこそその気持ちに寄り添うのは、それなりの覚悟がいる。
踏み込むのは簡単。
でもその本質に触れるのは、きっと難しい。
私自身、アレンみたいに周りに優しい気持ちを持てない人間だから。
そんな気持ちもないのに、踏み込むことはできなかった。
それでも神田に近付きたいと思ったのは──…それだけの思いがあったから。
「だから嫌だなんて思ってない。泣くなら、その涙くらい拭ってやる」
「…痛くしない?」
思わずいつかと同じ言葉をかければ、一瞬眉を潜めたものの、無言で神田は私の目元に唇を寄せた。
ローマでしてくれたものと同じ。
優しいけど、決して一瞬じゃない。
肌と肌が触れ合う、確かな意思ある行為。
その近過ぎる距離にまともに神田の顔は見えないけど…なんだか凄くほっとした。
ほっと安心する。
上手く説明できないけど、心が落ち着く。
ノアの奇妙な不安はまだ残ってるのに。
神田が傍にいると、それだけで安心できた。
きっとこうして落ち着いていられるのは、その言葉や触れてくれる肌もあるから。
…人肌って、こんなに安心するんだな…。