My important place【D.Gray-man】
第35章 抱擁
「他人事じゃないなんて言えないよ…だってそんな経験、想像もつかない」
人を人として見ない目。そういう目は、向けられたことがあるから。
ジャスデビの思いは少しはわかる。
でも。
他人に造られた命。
他人に造られた体。
他人に定められた道。
全ては誰かに造られた"生"。
それがどんなものなのか。
想像したくてもできない。
そんな経験、したこともない。
「想像はつかないけど…神田のことを思うと、胸が詰まる」
目の前の胸に、額を押し付ける。
やっと触れられた体を手放したくなくて、気付けばしっかりとその団服を握っていた。
「胸が苦しくなる。…締め付けられる」
…やっぱり上手い言葉の表現なんて思いつかなくて。ただただ浮かぶ感情を、そのまま吐き出した。
想像もつかない出来事を経験してる神田に、辛いよねなんて。大変だよねなんて。
そんな知ったような言葉、かけられない。
同じ世界に立ってもいないのに、そんな言葉、相手が受け入れられなかったら。ただの感情の押し付けにしか、ならないから。
「泣きたくなる…けど…泣いちゃいけないって、思う」
ただ。
他人に造られた命で、他人に定められた道を歩んで。
そんな作られた世界で、誰も寄せ付けようとせず一人で立っている神田を思うと。
痛い。
痛くて、泣きたくなる。
でも一番痛いのは神田だ。
その過去も抱えた思いも全部背負ってるのは神田だから、その鱗片を知っただけの私が泣くのは、きっと違う。
「……はぁ」
聞こえたのは溜息。
頬に手を添えられて、持ち上げられる。
近くにある神田の顔と目が合って、もう一度その顔は溜息をついた。
「そんな顔してりゃ、泣いてんのと同じだけどな」
そう呟く神田の眉間に、もう皺は寄っていなかった。
そんな顔って…また酷い顔してたのかな…。
………今の寝不足な顔じゃ、どんな顔しても酷いものになってそうだけど。