My important place【D.Gray-man】
第35章 抱擁
「……ノアの…あの双子のことを、教えてもらったの」
ノア化したなんて言えなくても、嘘なんてつきたくなくて。口から零れ落ちたのは"真実"だった。
「二人の、過去のこと…」
夢のようで夢じゃなかった出来事。
あれはきっと、本当に起こった出来事だ。
ジャスデビの記憶にある、きっと忘れられない出来事。
「……哀しいって思った。その過去を知って…他人事には思えなかった」
同情じゃない。
そんなものノアに対して持ちたくないし、あの双子だってそんなもの望まないと思う。
だけどこの思いはそんな理由なんてない、説明のつかないものだった。
ただただ、哀しくて。
他人事として見ることができなかった。
それはジャスデビのノアメモリーを流し込まれたからなのか、わからないけど。
「理由なんてないけど──」
俯きがちに告げていると、不意に背中を押された。
「…神田…?」
違う。
背中を押されたんじゃなく、背中をドアに押し付けられたんだ。
囲うように距離を縮めて触れた、神田の体で。
「…なに敵に同情してんだよ」
その腕は私を抱きしめてはいないけれど。
ドアに手をついてすぐ傍にある顔が、その長い黒髪を私の頬に垂らしてくすぐる。
怒っているようで怒っていなくて。
咎めるようで咎めていない。
感情の起伏の見えない神田のその言葉は、私の胸を締め付けた。
「…同情じゃないよ」
同情なんかじゃない。
だから泣きたくなる。
この気持ちがなんなのか。
わからなかったから。
「……じゃあ俺はどうなんだ」
「え?」
距離を縮めたまま僅かに離れた顔が、至近距離で真っ直ぐに見てくる。
「俺の体のことを知って、同じ気持ちでも抱いたか」
神田の体のこと。
それはつまり──…"第二使徒"のこと。
「違うっ」
咄嗟に出た言葉は、無意識の否定だった。
「違う…神田のことは…そんなふうに思ってない」
"酷い"なんて言葉、簡単に吐けない。
"可哀想"なんて言葉、間違っても言えない。
あの夜の書庫室で、神田のことを…ALMAとYUのことを知った時。
あの時、抱いた気持ちは言葉では上手く説明つかないものだった。