My important place【D.Gray-man】
第35章 抱擁
「というかラビは関係ないから! あれは私が──…ひっ」
とにかく隣で震える兎さんが不憫で、誤解を解くのが先だと意を決して振り返れば、ゆらゆらと殺気立つ気配を纏った鬼が見えて失敗した。
なんでそんな怖い顔してんの…!
折角の美形が台無しですよ…!
「神田の為に私が着飾ったのよ。可愛かったでしょ?」
臆すことなく笑いかけるリナリーに、神田の鋭い目が向く。
よくあんな目を真正面から受け止められるよね…リナリー凄い。
「なんで俺がいない時に飾り立てて、俺の為になるんだよ」
「それは話の流れみたいなものだから。今回は仕方なかったの」
「なら次はやるな」
「あらなんで? 好きな服装をするのは個人の自由でしょ。誰であっても、雪の自由を妨げる権利なんてないわ」
「……」
…おお。
リナリーの正論に神田が押し黙った…!
いつもならここで鉄拳の一つでも落ちてそうだけど、相手はあのリナリーだから。
奇跡的に穏便に話が進んでる…!(多分!)
「雪も楽しんでくれたんだから、いいでしょ。昨日は色々買い物して、女子アイテム買ったのよ」
「買い物?」
「うん、証拠もちゃんとここに──」
「げっ! 待つさリナリー!」
「ストップそれストップ!」
善意で言ったんだろう、にこにこと笑顔でアルバムを示すリナリーに、咄嗟にラビと声を上げる。
だけど時既に遅く。神田の目はそのアルバムで止まっていた。
「…あ?」
ビシリ
まるでそんな音が、空気に入ったような気がした。
いや空気に亀裂なんて入らないけど。
入ったんです、確かに。
談話室の温度が僅かに下がったんですいやほんと。
「リナリーっ見せないでって約束したのに…っ」
「え? 神田に画像を送らないって約束だったでしょ?」
「……」
確かに、そう言ったけど。
言いましたけど。
だからって写真ならいいなんてことないから!
善意であっても、神田にそんなもの見せちゃ駄目!