My important place【D.Gray-man】
第35章 抱擁
楽し気に話に花を咲かす二人を見ていると、つられて私も気分が弾む。
無視できない問題はあるけど…ずっと落ちたままじゃ、疲れるだけだし。
気遣ってくれてるラビ達の為にも、元気を貰える時は笑顔でいよう。
「そういやラビ、年上好きだったっけ」
「あ、そういう意図があったのね」
「そうそ…って違ぇ!」
笑って言えば、即座に否定される。
そんなやりとりは楽しくて、ついつい笑顔は零れた。
「そういう意味で言ったんじゃねぇから!」
「じゃあどういう意味だ」
「ただフツーに雪の大人ファッションも見てみた…い……?」
拳を握ってはっきりと言ってくるラビの声が、途端に萎む。
……うん。
今…後ろから問いかけられたよね……低い声で。
「あ」
思わずギシリと固まる私とラビ越しに、その人物を見た向かいのリナリーが笑う。
…ちょっと待って。
待ってリナリー今は呼ばな──
「おかえり、神田」
で す よ ね。
いたら普通に呼びますよねですよね!
「あの恰好はテメェの差し金か、馬鹿兎」
ゆらりと、這うような低い声と共に殺気が私とラビの背後にのしかかってくる。
恐ろしくて振り返れない。
というかなんで怒ってるのかな…!
絶対呆れた顔で、阿呆らしいとでも言ってくるかと思ってたのに…!
何この殺気!
すんごい怖いんですけど!
「雪…オレ、一人で死にたくないさ…」
微動だにできない私の隣で、同じく顔を青くして動けずにいるラビが震える声で呼びかけてくる。
そういえば、逝く時は一緒にいようって約束したっけ。
「だ、大丈夫。ちゃんといるから…っ」
同じく震える声を張って、しっかりとその手を握る。
「あんまりそういうことしない方がいいんじゃ…」
そう目の前で忠告してくるリナリーの顔は、けろっとしたものだった。
え、何。
なんでそんなに平気なの、リナリー。
その目には映ってるんでしょ、背後に立つ鬼が。
なんで平気なのリナリー凄い!