• テキストサイズ

My important place【D.Gray-man】

第35章 抱擁



「大丈夫さ? 医務室で睡眠薬でも貰っ…あ」

「っ?」


 覗くように顔を伺ってきたラビが、不意に私の顔を見て声を上げる。

 ビクリと思わず驚く。

 え、何。
 まさかまたノア化──


「ここ、やっと治ったんさな」

「え?…あ」


 とん、とラビの指先が私の額に触れる。

 …そうだった、そういえば。

 それはまるで肌に溶け込むように。褐色の肌色も金色の目色も、そして額の聖痕も、頭の奥の耳鳴りが止むと自然と消えていった。

 額の十字傷はもうない。
 まるで最初から何もなかったように、跡形もなく消え去った。


「よかった、傷跡も残ってないみたいで」


 ラビと同じく、横から覗き込んできたアレンがほっとした笑みを見せる。


「もうあまり無茶しないで下さいね」

「…うん」


 軽く笑って頷く。


 そう、聖痕は消えた。
 そして何故か、ずっと見えていたあの白い影も消えた。

 もしかしてノアとして覚醒したからなのか。
 …わからない。
 確信が持てずにいるのは、自分の体が自分の体でないようだったから。

 ノア化したのも、それが元に戻ったのも、決して私の"意思"じゃない。
 恐らくジャスデビのメモリーを流し込まれたからだ。

 ノアのことなんてわからないから、果たしてこれが覚醒と呼ぶべきものなのかどうかなんて到底わかりはしないけど。
 でも…今私がこの元の姿でいられるのは、決して自分で自分の姿を操作しているからじゃない。

 勝手にノア化して、勝手に元に戻った。
 私の意思じゃなく動いている体。

 それだけは確信できることだった。


「……」


 私の体で、私の知らないことが起きている。
 初めて額の十字傷が浮かび上がるのを、教団の夜のトイレで見つけた時のように。それは大きな影を被せてくるように、奇妙な不安を私にもたらした。

 …何が起きてるんだろう。
 わからないから、怖い。

/ 2637ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp