My important place【D.Gray-man】
第35章 抱擁
「よっス、雪ー」
朝の教団の廊下。
いつものように内勤の職場に向かう廊下で、呼び止められた。
背後からかかる慣れ親しんだ明るい声に、ピクリと指先が揺れる。
足を止めてゆっくりと振り返れば、案の定見えたのはぱっと明るい赤髪。
「おはようございます、雪さ…ん?」
その隣に立っていた、これまたぱっと目立つ白髪の少年も私に目を止めて、一瞬。言葉を濁した。
「……どうしたんですか、その顔」
「…やつれてますね」
まじまじと見てくるその少年の隣で、眉を潜めて口にするのは中央庁の監視員さん。
赤に白に金。
朝から目に映えるカラフルな毛色だなぁ。
「どしたんさ」
「…ちょっと寝不足なだけ」
ラビの問いに、脱力気味に肩を落とす。
三人の目に映っている私の顔は、今朝鏡で見たままのものなんだろう。
目の下に隈を浮かべた、きっと酷いもの。
「昨日はそんな夜遅くまで、部屋にお邪魔はしてなかったはずですが」
「遅くまで起きてたんですか?」
「うん、まぁ。なんとなく眠れなくて」
続け様のリンクさんとアレンの問いに、欠伸混じりに軽く頷いてみせる。
そんな口元に当てた自分の掌は、いつもと変わらない肌の色。
…昨夜、まるでノアのような姿になってしまった後。その肌も目も聖痕も、ずっと消えなかった。
消えろ消えろと何度唱え続けても消えずに、ずっとこのままかもしれないという不安で寝付くことなんて到底できなかった。
結局頭の奥の耳鳴りが消えて、同時にこの姿が元に戻ったのは明け方近く。
精神的にも身体的にもすっかり疲労困憊して、顔はこんな有り様になってしまった。