My important place【D.Gray-man】
第2章 空白の居場所
世界の終焉を目論むノアの一族である"千年伯爵(せんねんはくしゃく)"との聖戦の為に設立された、此処はヴァチカン直属対悪魔軍事機関──黒の教団。
"悪魔"と言っても聖書に出てくるそれとは違う。
千年伯爵が、人間と機械と悲劇を材料に造り出す悪性兵器"AKUMA(あくま)"を対象としたもの。
そんなAKUMAを破壊できる唯一の存在、"エクソシスト"を抱える戦闘組織。
それが此処"黒の教団"総本部だった。
そんなこの地で知ったのは、親の実力の大きさと。
「…流石は親の血、か」
"エクソシスト"と"サポーター"としてしか記録が残っていない真実だった。
父と母の、人としての記録は何もない。
どんな人で、どんなことに喜んで、どんなことに悲しんで、どんな人生を歩んだのか。
…多分、一生知ることはできないんだろう。
それを悟ると同時に、私は此処で戦う意味を無くした。
──サァァ…
頭から熱いシャワーを浴びる。
体を流れ落ちるお湯は一気に赤く染まって、排水溝へと流れていく。
生臭い臭いが消えていく感覚に、ほぅと息をついて、同時にビリッと肩に痛みが走った。
「痛…」
見なくてもわかる。
神田に倒されるその前に一瞬、AKUMAの鋭い爪先が私の肩に掠っていたから。
じくじくと痛むそこを、そっと伺う。
見れば綺麗に縦に入った赤い線があった。
よかった、そんなに酷くなさそう。
「医務室に行かなくても、大丈夫かな…」
これくらいなら、自室の救急セットでどうにかなりそうだし。
安心と同時に、一気に体に疲れが圧し掛かる。
張っていた気がどうやら緩んでしまったらしい。
「……疲れた…」
今回の任務はAKUMA討伐だった。
イノセンス回収より格段に命の危険を伴う任務に、ずっと気を張っていたし、組んだ相手はあの神田。
自分の身は自分で守らないと、最悪置いていかれることもある。
サァァ…
熱いシャワーの雨を被りながら、そのままその場に座り込む。
熱いお湯にじくじくと肩が痛む。
──ズキ
「ぃた、」
その時、頭に鈍い痛みが僅かに走って思わず額を押さえた。