• テキストサイズ

My important place【D.Gray-man】

第32章 幾恋心



「んー…幸せかは、わかんないけど…」


 クロウリー相手だからか、こんな話をしていたからか。バレた想いを変に否定する気にはならなくて、宙を見上げるように首の角度を上げる。


 自然と思い出すのは、よく見ていた高い背中。
 よく見ていた真っ黒な団服姿で、髪紐で長い髪を一つに縛った後ろ姿。

 …だけど。

 それから少しだけ振り返って、きちんと私を見てくれる真っ黒な瞳とか。
 少し低い声で名前だけ簡潔に口にして、呼びかけてくる声とか。

 思い出す姿は、前とは少し形を変えた。
 それは最近よく見せてくれるようになった姿。

 名前もろくに呼ばずに背中ばかり向けていたあの頃から、きちんと向き合ってくれるようになった。
 そんな確かな姿。


「……私は幸せ、かな」


 思い出すだけで自然と笑みは浮かぶ。

 人並みの幸せがなんなのか、よくはわからないけど。
 見ていたい人がいて、その人も私を見てくれている。
 そんな今を確かに幸せだと思えるから。


「そうであるか」

「うん」


 クロウリーと視線を交えて、二人で笑い合う。
 そこに流れる空気は温かくて、とても優しいものだった。





 ──パシャッ





 そんな空気を無情に切り裂く、シャッター音。

 …………ちょっと待って。


「……リナリー」

「素敵な笑顔頂きました」

「笑顔であるか?」


 目を向ければやっぱり其処には、にこにことそれこそ素敵な笑顔を浮かべた美少女が立っていた。
 その手に通信ゴーレムを持って。

 …本日、三度目ですけどそれ。

/ 2637ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp