My important place【D.Gray-man】
第32章 幾恋心
「んー…幸せかは、わかんないけど…」
クロウリー相手だからか、こんな話をしていたからか。バレた想いを変に否定する気にはならなくて、宙を見上げるように首の角度を上げる。
自然と思い出すのは、よく見ていた高い背中。
よく見ていた真っ黒な団服姿で、髪紐で長い髪を一つに縛った後ろ姿。
…だけど。
それから少しだけ振り返って、きちんと私を見てくれる真っ黒な瞳とか。
少し低い声で名前だけ簡潔に口にして、呼びかけてくる声とか。
思い出す姿は、前とは少し形を変えた。
それは最近よく見せてくれるようになった姿。
名前もろくに呼ばずに背中ばかり向けていたあの頃から、きちんと向き合ってくれるようになった。
そんな確かな姿。
「……私は幸せ、かな」
思い出すだけで自然と笑みは浮かぶ。
人並みの幸せがなんなのか、よくはわからないけど。
見ていたい人がいて、その人も私を見てくれている。
そんな今を確かに幸せだと思えるから。
「そうであるか」
「うん」
クロウリーと視線を交えて、二人で笑い合う。
そこに流れる空気は温かくて、とても優しいものだった。
──パシャッ
そんな空気を無情に切り裂く、シャッター音。
…………ちょっと待って。
「……リナリー」
「素敵な笑顔頂きました」
「笑顔であるか?」
目を向ければやっぱり其処には、にこにことそれこそ素敵な笑顔を浮かべた美少女が立っていた。
その手に通信ゴーレムを持って。
…本日、三度目ですけどそれ。