My important place【D.Gray-man】
第32章 幾恋心
「…最悪だ…」
「もう、そんなに落ち込まなくても。別に怒られるわけじゃないんだし」
目の前で顔を机に突っ伏している雪に声をかける。
折角綺麗に化粧したんだから、そんなに顔を机に押し付けないの。
「怒られるっていうより、呆れられると思う…」
「…なんで呆れるの。好きな人が綺麗になったっていうのに」
力なく机から上がった雪の顔は、ジェリーさんの手によってほんのりと薄い化粧が施されていた。
血色の良い顔色に、いつもより長く影を落とす睫毛。
明るく色付いた唇はふっくらとその形を印象付けてくる。
いつもの雪とは違う姿に、女の私でも一瞬ドキリとする。
こんなに綺麗になったのに。
それを呆れるなんて、おかしいでしょ。
「神田は皆と同じだから。ほら見てこれ」
肩を落として周りに目を向ける。
そんな雪の視線の先を追えば。
「雪…お前どーした…今頃女に目覚めるなんて…」
「つーか、雪って女だったんだなぁ…」
「だから拾い食いするなって言っただろー。何食ったんだお前」
………うん。
しげしげと雪をまるで珍獣か何かを見るように語りかけてくるのは、雪と同じファインダーの仲間達。
綺麗に着飾った後、嫌がる雪を連れてお昼の食堂に向かえば、見慣れないその姿にすぐ皆の目は向いて、あっという間に集られた。
そしてこれ。
折角仲間が女性らしく綺麗になったのに、誰もそれを褒めない。
寧ろ物珍しそうに髪や服に触れる始末。
ちょっとそれは男性としてどうかと思う。
アレン君を見習った方がいいわよ、皆。
「だから拾い食いなんてしてないってば。あっち行って、あっち」
しっしっと嫌そうな顔で手を振って皆をあしらう雪の言い分には、これじゃ納得してしまう。
こんな皆に囲まれて仕事してたら、女性意識が薄れても仕方ない。