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My important place【D.Gray-man】

第32章 幾恋心



 あいつの涙も叫びも全部見放して、俺は"あの人"への思いを取った。

 あの時、この左手で握りしめた六幻で。
 何度も何度もあいつを斬り刻んだ。

 何度も何度も、その声が俺を呼ばなくなるまで。
 何度も何度も、その目が俺を見なくなるまで。










"ごめ…ッごめん、アルマ…!"










 あいつを傷付けてるのは俺なのに。
 痛いのはあいつのはずなのに。
 斬り刻む度に、自分の心が引き裂かれているようだった。

 痛かった。
 声を荒げて懺悔して、気持ちを殺さないと耐えきれなかった。

 肉を断ち切る感覚も、心を引き裂く感覚も。全部この左手が覚えてる。
 今でも鮮明に。


「……」


 だから"戒め"として、形になる物をこの左手に付けた。
 二度とこの手で六幻を握らないように。
アルマを殺したこの手で、刃を握らないように。

 あれは"枷"だ。

 俺が一生背負っていくべきもの。
 誰にも見せずに、一人で抱えていくべきもの。


 なのに。





『お前がそれを身に付けるなら、月城が俺の"枷"になる』





 それを俺は月城に押し付けた。
 無関係なあいつにそんなもん、押し付ける気なんざ微塵もなかったのに。

 あいつが別々の任務を気にしてたから、なんてそんなのはただの言い訳だ。
 …多分俺が、それを望んだから。





『体だけじゃなく"ここ"で傍にいろ。わかったな』





 放っておいたら、時々消えてしまいそうに見えるあいつだから。形にして縛っておきたかった。
 きっとそんな思いがあったから、あんなことを口にした。





『…わかった。私が神田の枷になるよ』





 "枷"なんていいもんじゃないこと、あいつもわかってるはずなのに、そう口にして嬉しそうに笑う月城に俺の心は満たされた。
 "枷"なんてあっていいもんじゃないのに、月城がそれで俺を縛るなら悪くないとさえ思った。

 何度も手首に付けた数珠を見ては頬を緩めて笑うあいつの姿に、どうしようもなく感じたのは──…紛れもない愛しさだった。

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