My important place【D.Gray-man】
第32章 幾恋心
「ただ昔は、ほとんど笑ってくれない子だったので。感情の起伏が見られず心配もしました」
…俺が月城のことを初めて認識したのは、モロッコの任務で組まされた時だった。
あの時はまだ俺も月城も一般的に見れば、"子供"と思われる容姿をしていた。
そんなあいつは俺のことを"エクソシスト"という枠組みでしか見ない、無感情なものだったが…愛想は普通にあった。
作られたもんでも、人並みの感情を見せていた。
トマの言ってる月城の姿は、俺は見たことがない。
恐らく俺が知るよりももっと昔の幼い姿。
ジジも鼠呼ばわりしていた頃の姿だろう。
あいつは使徒を作る実験経験者だ。
そういうもんを経験すれば、感情だって粗削りになるのかもしれない。
「……」
…そういや、なんであいつは"教団(ここ)"にいるのか。
俺は"あの人"の為にこの教団に身を置いている。
それだけの理由がなきゃ、俺やアルマを道具としてしか扱わなかったこんな場所にいたいとは思わない。
月城だって似たような気持ちは抱いたはずだ。
それでも此処に留まる理由は、なんなのか。
俺のように、そこまで思う誰かがいるのか。
なんとなく、そんな思いが浮かんで引っ掛かった。
「神田殿のお陰ですね」
「は?」
急な言葉に面食らう。
見れば、また其処にはにっこりと笑うトマの顔。
「月城殿があんな顔で笑う姿、私は初めて見ました。きっと神田殿のお陰です。ありがとうございます」
「……」
否定はできなかった。
それだけの想いを、あいつに抱えていたのは事実だったから。
「…別に、礼言われるようなことはしてねぇよ」
ただ、誰かの見返りが欲しくて抱いた想いじゃない。
これは俺自身があいつを欲して抱いた想いだ。
「私が言いたかっただけなので、お気になさらないで下さい」
それでもにこにこと笑うトマの表情は、止まることはなかった。