My important place【D.Gray-man】
第32章 幾恋心
「…神田殿」
「なんだ」
「……いえ」
「?」
方舟ゲートに向かいながら、隣をついて歩くトマが何か言いたげにして口を閉じる。
何かと目で問えば、にっこりとそいつは笑った。
「ありがとうございます。我らの同胞に目をかけて下さって」
「…あ?」
一瞬なんのことかわからなかったが、恐らくこの流れでいけばその同胞ってのは月城のことなんだろう。
トマは長く教団で働いているファインダー。
月城のことは昔から知ってるのかもしれない。
「……トマ」
「はい?」
そう考えると、不意に気になった。
「お前はあいつを昔っから知ってんだろ」
「あいつ…月城殿のことでございますか?」
「……あいつ、どんな奴だった」
方舟ゲートを潜り、中にある白い煉瓦道を歩きながら問いに問いで返す。
今までなら微塵も気にかけなかったことが、月城のことだと気にかかるようになった。
俺の知らないあいつをトマは知っている。
それを純粋に知りたいと思った。
「そうでございますね…月城殿の母君は名のある教団のサポーターでして」
…ああ、そういや。
一度だけ月城が語った親のことを思い出す。
エクソシストとサポーターだったって言ってたか。
「それ故に周りからの期待は大きなものでしたから…いつもがむしゃらに体を鍛えて、仕事に取り組んでいましたよ」
「…ふぅん」
あいつの鍛錬癖は昔っからのもんだったのか。