My important place【D.Gray-man】
第32章 幾恋心
「神田」
司令室を出てトマと方舟ゲートに向かってる途中で、その声を耳にした。
振り返れば、小走りで駆け寄ってくる月城の姿。
最近見慣れたファインダーのマント姿じゃないその私服姿は、団服姿の俺と並ぶと少し違和感があった。
それだけ任務の時には当たり前に、月城と組まされていたから。
「組むファインダーはトマさんなんだね。なんの任務?」
「単なるイノセンス回収だ」
「そうなんだ」
へー、と相槌を打ちながら不思議そうに首を傾げてくる。
大方、また別々になった理由でも考えてんだろ。
「気を付けてね」
「気を付けるまでもねぇよ」
「何が起こるかわからないでしょ」
そう言って月城が指差したのは、額の怪我。
「すぐに完治しても怪我は怪我。私のこれと変わらないよ」
…そういやこいつは第二使徒のことを知ってたな。
ローマでの任務で、俺の体にも"限り"があると心配していた。
だから身を案じてるんだろう。
「ったく…はいはい」
それを思い出すと、面倒だとは思うが嫌な気はしなかった。
こいつが俺の体を案じているのは俺が"エクソシスト"だからじゃない。俺自身を見て案じてくれているんだとわかるから。
「トマさんも、神田をよろしくお願いします」
「ええ、わかりました」
「…オイ」
ただその保護者面する行動は、気に入らなかったが。
「じゃあ、いってらっしゃい」
ひらひらと軽く手を挙げて振ってくる。
その姿は、ローマの任務に発つ前に見たものと同じ。
あの時はどことなく離れていく月城の姿が気にかかって、何故か引き止めた。
理由はなかった。
ただ気になったから。
「…いってくる」
今はその取っ掛かりのような気持ちは何もなくて、気付けば勝手にすんなりと俺の口からはそんな言葉が零れていた。
その言葉に、月城の笑みが柔らかくなる。
胸にじわりと何かが染み渡る。
それがなんなのかはっきりしないまま、俺は背を向けてその場を後にした。